その知床観光圏の事前打合せで網走へ。5つのプロジェクトのうちの1つ、「ホーストレッキングルート(パブリック・ブライドルウェイ)の開発」です。詳細が決まりましたらまたお知らせしますが、今日お話ししたいのはそのお手伝いをお願いする高谷弘志さんです。
高谷さんとは古いおつきあいで、僕が知床に来たばかりの頃、そして彼がJTBの支店長だった頃にさかのぼります。当時まだ事業をはじめたばかりで、観光業界のことがよくわかっていない僕にいろいろと指南していただいた一人。そんな彼はその旅行業界の中にありながら、業界のオルタナティブを明確に僕に示してくれていました。つまり「発地型から着地型へ」という、今、もっとも注目されている流通革新の必然性を当時から唱えていらっしゃいたのです。
現在の旅行業界は旅行会社にとって多くのお客様がいる旅行の出発地のニーズを吸い上げ、それに合う旅行を現地と一緒に作っていくという「発地型」の旅行商品流通が主流です。「一緒に作っていく」と言うと聞こえが良いですが、結局はお客さんのニーズに合わせて現地の受け入れを変えていくことになるわけで、場合によっては地域の文化や生活を無視した商品が出来上がってしまうことが問題を引き起こしています。例えば都会の人が誰でも憧れるであろう、TVに出てきそうな漁港で捕れたての魚の入った鍋を現地の人とつつく・・・みたいな食事を期待されても、地元ではああいったシーンははっきり言ってよっぽど特別な時にしかありません。それはそれはとても特別で、縁起を担いでいるのでそうそう簡単に旅行者を受け入れることができるものではありませんし、マネごとをやると魂を売ることになります。
ここまで深刻なことではなくても、例えば旅行会社が画一的に行うアンケートは良くも悪くも地域サービスの違いを均一化し、北海道で言えば「海の無い山奥のホテルでもカニが出る」という事態を引き起こしています。これは、受け入れ側にも問題はありますが、つまり出発地の発想ではあまりにも情報の精度が低く、各地域の習俗を反映することができないという反省が、今、旅行業会を「着地型」に転換させようと言う動きに結びつけています。
高谷さんは、まだ「着地型」という言葉が無かった当時に、「旅行会社の支店の仕事は、近郊の旅行者が東京などに行く出張パックを売るのではなく、地域の情報を集める機能と、それを地域の現状にあった商品として作り上げ、それを東京などの発地にホールセルするべきではないか。」と、地域のホテルやアウトドア施設を隈無く回り、支店がパッケージした商品を発地の本店に売ろうとしていました。これは、まさに今、研究者や業界が模索している大型エージェントの着地型モデルの典型です。これをやるしか、今ある大手旅行会社は生き残れないと言われていますが、高谷さんはそれを支店のレベルで15年も前からやっていたのでした。
しかし彼は「50歳まで自分が生きていたら、人生を変えると決めていたんだ!」とあっさりJTBを退社し、同時に札幌から家族を呼び寄せ網走に移住。50坪の家庭菜園や鵜骨鶏の肥育、果樹栽培などを行いながら、旅行業の経験や乗馬、カヌーと言った趣味・幅広い活動を活かし「広域的なひとづくり・まちづくり」に日々奔走しています。そんな高谷さんとは、2004年に一緒に「東オホーツクシーニックバイウェイ」を立ち上げ、観光のオルタナティブを迎え撃てるだけの地域力をつける取り組みを進めてきました。生活がベースにあることは、地域の実情を肌感覚として理解できます。まだまだですが、こうして観光庁の事業をこなしうるネットワークができているだけでも成果です。
でも、高谷さんも僕もやることが早過ぎるキライがあります(苦笑)。実は、知床でのホーストレッキングも以前からやっていて、一度「女満別空港から知床に行くまで2泊3日かかる、馬と自転車と歩きのツアー」をやったことがあるのですが、環境にもチョー優しいこの企画、誰もが大絶賛でしたが、同時に誰もが「これじゃあ、商売には向かないな。」と、もろくも一度きりの企画でした(僕にはこういうやって消えていった企画がたくさんあります(涙))。そんな湯水のように溢れ出るアイデアを、二人で話している時間はとても幸せな時間です。
打合せは早々に、高谷さんの土地の元地主さんの農家を訪問しました。網走のはずれの名も無い谷に、とてもとても手入れの行き届いたサクランボ畑が広がっていました。パラボラアンテナのような、太陽の光を効率よく浴びるカタチに美しく剪定されたサクランボの木は、その地主さんを慕って集まる多くの人によって、長い年月をかけ手入れされてきた品格のようなものが漂っていました。高谷さん自身も時々、手入れを手伝い、枝を焼き、そこで集まった人達とお茶を飲む時間を大切にしているそうです。
そんな、オーガニックな時間からパワーの源は生まれます。観光圏という事業が、ここに暮らす人のライフスタイルから滲み出るようなもてなしへと発展しますように。
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