「辺境」という言葉には都市から見て遠いところ、そして、とても不便(でかわいそう)なところというニュアンスが込められていますよね。どちらかというとネガティブ。僕はあまり使ったことのない言葉だったのですが、改めて「辺境」ということについて考えさせられる良い機会になりました。
この「サミット」は日本学術振興会(人文・社会科学振興プロジェクト研究事業「ボトムアップ人間関係論の構築」)というところが企画し地元の方々の協力を得て開催されたもの。そして僕に声がかかったのも、その「ボトムアップ」のまちづくりの視点を評価してくださったようで、「辺境」ということと「ボトムアップ」ということを考察の軸にした旅でした。そう「辺境」で、しかも「ボトムアップ」という敢えて大変な道を歩むことの苦労と重要性と力強さを共有する場の創出を、主催者は狙っていたのでしょう。

こんな、チャレンジングなテーマには多様な専門家が必要です。今回の視察チームにはいくつかの大学の社会学系の教授や研究者、そして小笠原に深く関係しているライターさんなどそうそうたる方々が参加しています。加えて、沖縄で地域の暮らしに根ざした環境活動をされている方も合流し、知床・沖縄・第一線の研究者・・・という、草の根系と学術系とがバランスのとれた何とも贅沢なお膳立てに感動すら覚えました。しかも、僕が最も居心地がよかったのが、「上から目線」の学者がいなかったこと。ボトムアップというテーマをよく理解されている以上に、普段から地域からの目線を大切にしながら様々な活動を進めてこられた方ばかりなのです。また自然保護系の研究者の一人も、「自然は大切だ」と一般論を言うのではなく、日頃から小笠原のコミュニティに深くコミットし、まちづくりの視点からのエコツーリズムや自然保護管理を訴え続けていらっしゃる方でした。そう、小笠原の母島はこうしたサポーターを活用しながら、まちづくりのプロセスをゆっくりと着実に歩み続けているのでした。

小笠原諸島は東京から1,000kmも離れた太平洋のど真ん中に位置します。そこに行くには、1週間おきぐらいに出る船で行くしかありません。25時間の船旅、そして帰りの船は数日後にならないと出ない・・・という、僕的には夢のような場所ですが、現地の生活という面では独特のサイクルが強いられる島です。いくつかある島々のうち、人が住んでいるのは父島と母島だけ。父島の方が観光施設も多く、ほとんどの旅行者がこちらでダイビングや今話題のドルフィンスイミング、冬にはホエールウォッチングをして楽しみます。一方、母島の方は、絵に描いたようなスローな南の島。観光地としてというよりも、のんびりとした地域の暮らしそのものが魅力を醸し出している素敵な場所です。僕たちはこの母島の方々に協力をいただき、催しを開催したのでした。

母島滞在中は現地の視察と、地域の方々との語りあいにすべての時間を費やしました。初めて訪れた地で、これほど多くの方々と語り合えるのは本当に幸せです。が、それよりも仕事の合間を縫ってのシュノーケリングや散歩ができたことが何より幸運でした。お仕事の時間も大切なのですが、僕は視察のときにはこういった遊びのときに感じる「空気感」に重きを置いています。仕事を介して語り合ってしまうと、先方にもそしてこちら側にも、意図せずも何かしらかのフィルターがかかってしまいがちです。そんな中では、悪気はなくともお互いにとってある意味都合の良い情報しか入ってきません。しかし、その土地に流れる生活感というか地域性 ーやっぱり「空気感」という言葉が最もぴったりですーを感じ、できるだけ同じ「言葉」を使いたいと思います。そのためには、僕にとってはブラブラしたり、その土地で遊ぶことが一番なのです。
そんな中で感じたのは、やはりテーマともなっていますが都市からあまりにも遠い=「辺境」ということでした。しかし、「辺境」のもつマイナスの面だけではなく、あるいはそれ以上に、そのメリットがこの土地の空気感に影響を与えている気がします。短い滞在中、ちょっと、この辺りを個人的には掘り下げたくなりました。

座談会のときに現地の方がこんなことを仰っていたのが印象的でした。
「エコツーリズムだとかマスツーリズムだとか、観光客を増やしたいだとか増やすべきではないとか、いろいろなことを言う人がいます。でも、とにかくやりたくったて(遠くアクセスが限られているので)、そもそもどちらもできないんです。それよりも『好むと好まざると都会から離れた場所』という現実の良い面悪い面を見つめ、そこから、何かが生み出せないかと考えたいと思います。」
さらに他の方がこんなことをおっしゃっていました。
「私たちは離島に暮らしていて、もちろん急病のことなどを考えると、心配で心配でもっと都市とのアクセスを良くしたいと考えています。一方であの船の中での25時間はかけがえのない時間なんですよ。もう、酒を飲むしかやることがないというね(笑)。こんな小さな街でも普段は話せないけど、船の中ならゆっくり話せる・・・ということがあるんです。島の暮らしはゆったりしているように見えるけど、やっぱり現代に生きていると忙しいものです。船の中の何もしなくても良い25時間はむしろ大切なものなのかもしれません。そういう意味では、小笠原の場合こうした『ゆったり』を追求することがエコツーリズムなのかなと思っています。」

カレンダーではなく、船の運行スケジュールが生み出す生活のリズムという「時間」、数多い戦争遺産が刻む止まった時計という「時間」、自生種も移入種も入り交じっての動植物のめまぐるしくも長いスパンの生態系の変化という「時間」・・・そんな複数の「時間」が小笠原にはあります。小笠原にも「エコツーリズム」だとか「世界遺産」といった波が押し寄せているようですが、こうした時間軸みたいなものをスピリットとして計画に据えていくのが良いのではないかな〜、と帰りの船の中でぼんやりと考えました。そして、船に同乗している多くの旅人を見ていて感じたのは、今訪れている小笠原ファンの人たちは、そうした小笠原のいくつもの時間軸を素直に受け入れ楽しんでいることです。きっと、そんな旅人を最良の小笠原の理解者として捉えていく計画が立てられていくことでしょう。

それにしても、小笠原からの不思議な時間軸を持ったまま眺める東京湾の光景はなかなかにシュールです。おそらく海外からの多くの物資がこの湾から日本という国に入り、全国に散っていくのでしょう。その現実感が強烈に心に飛び込んでくる眺めです。
そして、不思議なものですが、都会よりも自然の方が好きな僕なのに、海からどんよりとした東京の街を眺めるとなぜだかとても愛おしく感じるのです。
人の営みへの仰望。
いくつかの時間軸からは完全にはずれてしまっている都市生活の現実への阻喪。
小笠原への旅は多くの人に様々なことを考えさせてくれます。おすすめのディスティネーションです。是非!
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かとうさん
コメントありがとうございま〜す。
小笠原、良いところでしたよ〜
確かに覚悟はいりますね(笑)
僕も、時間のある学生時代に行かなかったことを、
本当に最近まで後悔していました。
実は学生時代はカミサンが「小笠原に行きたい!」
というのを蹴って
いつも知床に行っていたものですから・・・
今回の小笠原行きは
カミサンにもかなり羨ましがっていました。
ところで、
非常勤就任おめでとうございます!
そうですね〜
「エコ(ロジー)」と「エコ(ノミー)」を捉える、次世代の文脈が必要だと常々感じています。
はい、がんばります!
投稿者 藤崎です : 2007年09月29日 21:32